1980年代の後半から90年当初にかけて、バブルの崩壊と共にソフトウェア開発の部門に対して、これまで体験したことの無いような、開発期間とコストに関して猛烈な圧力が掛けられました。開発期間は1/2から1/3に短縮することが求められ、コストも時には1/5にまで圧縮することが求められました。その要請は組み込みシステムを開発する組織も例外ではありません。
これに対して、幾つかのソフトウェア開発組織は、それらの要求に対して必死に対応してきたようです。しかしながら、その要求を実現する過程で、適切なプロセスの変革を伴うことなく、多くの組織ではこれを「力任せ」に取り組んだようです。つまり、日数を短くするために、1日の作業時間を長くするというやり方です、これによって1/2は難しいとしても、2〜3割は期間を縮めることが出来たかもしれません。コストの面でも、残業を認めないという建て前によって、結果的に2割程度の引き下げを実現したものと思われます。
しかしながら、ここで問題なのは、適切なプロセスの改善に基づかなかったということです。
今日では新しい市場の要請が姿を見せ始めており、その前兆現象は既に見えています。それは飛躍的な品質の向上と、それに伴うコストの削減です。ISO14000もその圧力の一つです。
前回の市場の要請に対しては力任せで何とか切り抜けてきた組織でも、品質の向上という今回の要請対しては同じ手は使えません。1日の作業時間を延長する方法で品質が向上するという根拠はどこにもありません。品質の向上はどうしてもプロセスの改善を前提としなければ実現しません。それに、前回の力任せの対応で、多くの組織は疲弊していることが懸念され、さらなる要請に対応するための力が残っていない可能性があります。
また、前回の時にプロセスを版化させる経験をしていないため、今回も力任せに取り組もうとしてしまう可能性があります。
ところがアメリカで80年後半に開発されたCR手法や6Σ手法は、まさにこの品質を飛躍的に改善するための方法で、6Σの場合は90年に入って全米の主な製造業が既に取り組んでおり、2000年には確実に成果を出してくることが予想されます。本年5月には、GEが2000年には100億ドルもの削減効果をめざして6Σに取り組んでいることを発表しましたし、HP社は6ΣとCR手法をミックスさせたものをソフトウェア開発に応用しようとしています。
「市場の要請」は、そのような周囲の状況によって、“兆し”の段階から“不退転”の要求へと変化していきますが、CR手法や6Σ手法は、確実に市場の要請の性質を変化させる力を持っています。このような状況にあって、わが国のソフトウェア開発組織は依然として力任せの開発体制のまま21世紀に臨もうとしています。
待った無しにソフトウェア開発組織の“プロセス”の改善に取り組まなければ、品質の面でもコストの面でも太刀打ち出来なくなります。