CR手法(Clean Room 手法)

 クリーンルーム手法は、最初から欠陥の無いソフトウェアを開発することを目指して、IBMにいた Harlan Mills 氏らが長年掛けて開発した「開発手法」で、1987年に発表されました。それ以来、各国の研究者やソフトウェアの開発組織において実際に取り組まれており、1990年に入って、その成果が報告されるに及んで、一躍注目されるようになりました。

 この手法の特徴は、ソフトウェアの開発者は一切テストを行わないことです。もちろんそのために開発段階で緻密なレビューと、それを支えるべく厳密なトップダウンによって設計が進められています。言い換えればレビュー(ここではインスペクションと呼んでいます)のみで、欠陥の侵入を防いでいるのです。

 テストは別の評価部隊が行いますが、その結果、一定の件数以上の不具合が検出されれば、修正されることなく“廃棄処分”となります。つまり、修正に値しない、というわけです。

 この「一定以上の不良率」を検出すればそのロットを全量廃棄するというやりかたは、LSIの製造設備である「clean room 」にちなんだもので、名称の由来もそこにあります。

 “そんな夢みたいなことができるものか”とお思いの方は、残念ですがそのような姿勢では、21世紀に入ってこの仕事を続けていくことは難しいと思います。そのようなことが「出来るかどうか」ということは、もはや問題ではないのです。既に実現しているのですから。

 例えばヒマラヤの「Kー1」も、誰も登ったことが無い段階では、果たして登ることが出来るものかどうかは議論になるかも知れませんが、既に一人でも登頂に成功した段階からは、そのような議論には意味はありません。そこでは、どうすればもっと早く登れるか、どうすれば未踏のルートから登れるかということだけが議論のテーマなのです。

 実際に、このようなクリーンルームの考え方に沿うように私の方で考えた開発方法を実験的に取り入れてみたところ、不具合の発生率が「4/KNCL」程度という数字を得ています。

 平気で米に石を混ぜておいて、炊き上がってから、混ざった石を取り除くためにご飯を引っかき回すようなソフトウェアの開発のやり方では、何時まで経っても不具合は無くなりません。
 いい加減にこのようなプロセスから決別しなければ未来は開けません。

「Cleanroom Software Engineering」 H. D. Mills 他
   IEEE Software Sep. 1987 p.p.19-25

「欠陥ゼロのソフトウェア開発」 日経BP社
   ISBN4-8222-0223-2   \6,500


「キーワード・リスト」にもどる