新しい組織の在り方を求める


企業は、ある特定の財・サービスを提供することで社会に貢献する為の集団で、組織はそれを効果的に進める為の便法であり、支援ツールのはずです。したがって、組織が効果的な活動の妨げになるということは、全く本末転倒な話しです。
しかしながら、組織は作られた瞬間から、本来の目的とは違って組織自体の目的を持つことになります。組織にはそのような性質があるのです。

今、話題になっている住都公団などの特殊法人は、まさにそれを象徴しているようなものです。これらは元来、ある目的で作られた組織で、その目的には何ら問題はないのですが、現実にはそのような本来の目的とは別に、“存在”そのものが目的となっています。

組織にはもう一つの問題、すなわち組織の目的と組織の構成員の目的とが必ずしも一致しないという問題もあるのですが、その方はここでは触れないとしても、組織には、生まれた瞬間から、存在そのものが目的となる性質があることは十分認識しておいて欲しいと思います。

一般に、組織は一度作ると壊せないのも、この存在そのものが目的となっているからです。したがって、組織を組み替えようとすれば、存在目的以上に、本来の目的を明らかにする必要があります。

これまでの組織は、それ自体が一つの情報の伝達手段でもありました。実際に情報の伝達経路・手段としての組織は確実に機能してきました。そしてそのことが組織が自らの存在を主張する一つの根拠でもありました。
しかしながら今日では、コンピュータとネットワークの発達によって、もっと効果的な、もっと迅速な、もっと効率的な情報伝達手段が手に入りました。これによって、より素早い判断・決定が出来る環境が整った訳です。

GEのジャック・ウェルチが10年前に掲げた「バウンダリレス」「スピード」「ストレッチ」という取り組みは、このようなコンピュータ技術を背景にした環境の変化を読み取ってのことです。「スピード」とは意思決定のスピードのことで、それはコンピュータとネットワークによって実現するものです。

この結果、組織の役割から“情報の伝達”という役割は消えることになり、そのことがまた、バウンダリレスを推進することになるのです。こうしてGEはドラスティックに組織を改造し、組織に与えられた役割は、意思決定だけとなりました。たしかに、意思決定に10数層もの組織階層が必要であるという根拠はどこにも存在しないでしょう。

そしてこのことはGEだけの問題ではありません。高成能のパソコンと高速のネットワークは、今や殆どの企業において整備されていると思われます。しかしながら、その殆どの組織において、今だに情報の伝達という役割が、組織の役割として成立しているのではないかと思われます。もしそうであれば、迅速な意思決定という時代の要請に対して、組織の存在そのものが障壁となっている可能性があります。特に、組織には本来の目的とは別に存在そのものを目的と化す性質がある以上、今までもっていた「情報の伝達経路」という役割を放棄するのを拒否する可能性があります。いや、自然な動きとして、そのような方向に動く可能性は高いのです。

最初にも述べたように、組織の本来の目的は、企業の目的を効果的に進める為の便法である以上、時代に合わせて組織の形や役割を変えていくことは、とても重要なことで、これが為されないことで、色々な取り組みにも支障を来すことになります。
したがって、マネージャーは時代の要請を察知し、それにふさわしい組織に作り変えて行くことが求められます。

たとえ、大きな組織の中で、“ソフトウェア開発組織だけ特別扱いは出来ない”という声が他部門から発っせられたとしても、21世紀を考えたとき、何としても説得しなければなりません。そうでなければ、そこにあるソフトウェア開発組織そのものの存在が危ぶまれます。

GEが100年もの間“一流”であり続けた背景には、組織に対する明確な考え方があるように思われます。



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