庵主の日記2

2003年3月1日 国民皆保険が崩れるか

 政府が進めている「特区」構想の中で、株式会社による病院の設立を認めようという構想がある。いままで、利益の追及を事業とする株式会社は医療に馴染まないということで、認められていないし、医師会なども反対してきた。「医療法人」は利益の追及を主たる行動としないということになっているが、現実にはそんなことは無理である。たとえ医療といえども利益を度外視しては事業は成立しない。逆に、いびつなところで利益を上げようとする可能性もある。利益の為にサービスの質を低下させれば、医療事故に繋がりかねない。それは今でも起きている、院内感染などは、まさにそこにコストをかける事ができないという病院の事情が働いているから起きるのであり、抗生物質を使えば儲かるから使いすぎるのである。そして現状の病院のシステムはそれを防ぐことができていない。この問題は、株式会社による病院でも起きる可能性はある。

 特に問題なのは高度な医療技術を整備しようとすれば、機器への投資は巨大なものになるが、株式会社とすることで事業資金を集めやすくなることも考えられる。また、経営に対する株主のチェックも入るし、病院経営の中に「リスク管理」も入ってくるだろう。株式会社のメリット・ディメリットを国民に分かりやすく公開すべきだし、その上でディメリットをどうやって発生させないようにするかである。それが分かっていて何も対応できないとすれば、怠慢か無能以外には無いだろう。にも関わらず、医師会や厚生族議員たちは、株式会社による病院の経営に反対してきた。

 結局、「特区」の中では株式会社での病院を認める代わりに、(既存の)保険による診療はしないということになった。つまり、その病院では「自由診療」となる。保険が効かなければ株式会社といえども病院の経営ができないだろうという思惑である。明らかに既得権者による新規参入の妨害である。今でも、歯医者に行けば、よく「保険の効かない」治療が行われている。この場合は、治療行為に対するチェックが効かない恐れがあって、医師を信頼する以外に無い。

 自由診療でも良いじゃないか。21世紀の新しい医療保険のあり方を考えたとき、既存の保険が効かないというのは逆手にとれる可能性がある。民間の保険会社がそこに参入できるのである。民間の保険会社が株式会社による病院と契約し、その民間の医療保険に加入していれば診療を受けることができる、と言うシステムを作ればよい。そこでは、保険の加入期間や掛け金に応じたサービスが受けられる。人間ドッグなどの健康診断や健康を維持するためのトレーニングも「保険」で受けることができるようにすればよい。病院の中にそういう施設を造ればよい。スポーツ・ドクターもそこに仕事ができるだろう。「予防」に保険が効くようにしたほうが、保険会社も出費が少なくて済む。しかも、病院の医療行為は、保険会社が常にチェックすることになる。診療行為にミスがあったり、病院内のシステムに問題があれば、保険会社としては、その病院との契約を切ればよいのである。保険会社もいい加減な病院と契約していては加入者が逃げてしまう。この方が病院の経営もしっかりするし、そこで診察をうける患者にとっても安心である。

 将来的には、民間の保険会社が発行する「医療保険」に加入していれば、海外にいてもその保険会社が契約する病院で診察を受けることができるようになるだろう(もうなっているのかも知れない)。21世紀の健康保険(医療保険)を考えたとき、その国の中でしか有効でない保険では不十分である。いずれ国民皆保険はその役目を終える時が来る。医療保険も受ける事のできる医療も選択できる時代がくるはずだ。

 日本医師会や厚生族は、「特区」の構想を骨抜きにしたつもりだろうが、逆に、新しい病院と保険のあり方をもたらす可能性がある。

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