庵主の日記2

2003年01月05日 政府の再就職支援策の欺瞞

 政府は、大手銀行の不良債権処理を進める代償として、総額800億円の再雇用対策費を当てるという。不良債権処理を加速すれば、企業の倒産が増えることは目に見えている。その結果として10万人が職を失う想定しているようだ。そのような企業にいて、不良債権処理に伴って職を失った場合、離職後6ヶ月以内であれば、再就職の際に1人60万円の助成が受けられるという制度である。ただし、対象となる不振企業には条件があって、失業者ならだれでも良いわけではない。

 いわゆる政府が強引に進めようとしている不良回線処理に伴う「セーフティネット」の積もりだろうが、これで政府の責任は果したと言うのであれば欺瞞も甚だしい。デフレで経済が縮小しているときに、中途採用して従業員を増やせる企業はどこにあるか。実際、大手の百貨店6社の中で、この春にもっとも新規大学卒業者の採用を増やすのが、皮肉なことに「そごう」なのである(わずか70人だが)。それも本体が倒産したのを機に正社員を半減させたことで、新卒者の採用が可能となったという。

 不良債権処理の中で事業が行き詰まる企業の中には、産業として日本では成立しない業種の可能性もある。彼らが6ヶ月以内に再就職できる業種は限られるし、すでに定員オーバーの状態になっているものと思われる。タクシーやトラックの運転手の労働条件が一向に改善しないのは、予備軍がいくらでもいるからだ。こんな状態でこの支援策を最高に活用するのは、頭のいい暴力団か悪徳弁護士ぐらいだろう。

 政府が本気で再就職を支援するというのなら、1年間、みっちりと教育・訓練するぐらいの方策を講じなければ意味がない。失業保険も、必要な教育・訓練を受けていることを条件に支払えばよい。再教育の資金は、必要もない高速道路やダム工事などの公共事業を先送りし、民間でできる振興事業への予算もかき集めればよい。要は国をあげて再教育事業を支援することである。工事に使った金は一巡すれば終わってしまうが、教育に使った金はその後も経済活動の中で新しい効果を生み出す。

 だがもう一つ問題がある。現行の法制度では一生懸命に勉強した人が報われないのである。企業のコストを押さえながら、彼らを採用して競争力を高めるには、「入れ替え」が可能な状態にするしかない。だが、この国は逆方向の法律を作ろうとしている。看板こそは「解雇の法制化」ということになっているが、内実は「非解雇の法制化」である。解雇に必要なのは適切な手続きなのに、「正当な理由」を条件につけようとしている。「新しい人を採用したほうが生産性も上がってコストが安くなるから」というのが、解雇の正当な理由として認められるとは思えない。

 不良債権処理の中で行き詰まった企業の中には優秀な人もいるだろう。彼らは直ぐにでも戦力になるとしても「入れ替え」が実現しなければ雇用されるチャンスは限られたものになってしまう。その問題は60万円で解決する問題ではない。再雇用の機会がないため、日本信販のように、企業の中での不正に対しても毅然とした態度がとれないということにも繋がっている。

 このような状況を放置したままでの再就職支援策は、私には欺瞞にしか見えない。

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