庵主の日記2

2002年8月25日 またも問題のすり替え

 政府は、来年4月のペイオフの完全実施を前にして、決済性預金は全額保護するたという案を持ちだしてきた。銀行が行き詰まったとき、決済ができなくなっては、社会全般に支障を来すというのが理由のようだが、その口実には無理がある。一般の人の決裁というのは、精々、電気代や電話代、水道代、住宅ローン、時にはクレジットの支払いぐらいで、1000万円を越えることなどありえない。だから、複数の銀行に口座を分ければ、全額保護されることになる。したがって、新しい、一般の預金者には、新しい決済性預金の必要はない。

 では、この提案は一体誰を何から保護するのが狙いなのだろうか。見掛け上は、決済が滞っては、企業などが困ると言うことになっているが、企業としては倒産しない銀行を選べば良いだけである。そうなると、困るのは選択から漏れた金融機関が、ペイオフの完全実施を前にして、資金の流出によって「ペイオフ倒産」が起きてしまうことが懸念されるのである。結局は、何も対応してこなかった金融機関を救済するのが目的としか考えられない。そうでなければ、日本の銀行は、どこも安全ではない、と言うことになってしまう。

 ペイオフの実施に関しては、準備期間は5年ほどあったと記憶している。もともと、これを機に、金融機関の経営基盤を強化するのが狙いだったはず。だがこの間、中小の金融機関のほとんどは何も準備してこなかった。それでも、「ペイオフの実施」の幕開けによって、いやでも淘汰が始まるはずだったのだが、直前になって泣きついた。

 どうやら、みずほ銀行のシステムトラブルで、悪知恵が働いた輩がいたということのようだ。問題をすり替えて、ペイオフをいびつな形にしてしまったのである。その結果、金融機関の経営基盤の強化という本来の主旨は、これによって曲げられ、いつまでも、効率の悪い状態が残されてしまう。首相は、これでも“ペイオフを実施したでしょ”というのだろうが、これでは、黒いカラスを、“白い”と言い張るのと同じである。

 道路建設を中止すれば、直ぐにでも生活に困る人たちが沢山居ることが、公共事業を止められなくなっている背景にあるのだが、それと同じように、金融機関の経営基盤の強化の裏で、生活に困る人たちがでるから、“決済ができなくなったら困るでしょう”という、稚拙なすり替えで現状を残そうとしている。結局、みんなが「無駄」を作り出して、その上で生活をしている。問題を先送りし、負担を将来に向けて「着払い」で送り付けておいて平気なのだろうか。こんな状態が、いつまでも続く道理は無い。

 韓国では、既にペイオフが実施されている。実際に、その後に幾つかの銀行が倒産しているが、特に決済が滞ったり社会問題にはなっていない。分散しきれない程のお金を持った人が一部で引っ掛かっただけで、彼らもそれで困るわけではない。

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