堰を弛めない

 詳細な作業スケジュールが最初から上手く考えられ、実施されることは、殆ど望むことは出来ません。一週間も経たないうちに、予定しなかった作業が入り込んだり、その場になって「詰め」の甘さが露呈してしまって、たちまち惨めな結果となってしまいます。

 それでも諦めずに、もう一度、「ここ」に戻って、原因と改良策を考えて工夫を加えていくことです。今回上手くいかないところがあっても、改良後のプランでは同じ失敗はしないという気持ちが必要です。

 詳細な作業スケジュールを立てることが出来るようになるためには、絶対に諦めないという姿勢が欠かせません。スケジュール管理に限らず、新しい取り組みに対しては、いつでも元に戻そうという力が働きます。月曜日になって突然誰かの応援を頼まれたりしたとき、バグの原因究明に思った以上に時間がかかってしまったり、まるで自分の新しい取り組みを、周りの全てが邪魔をしようとしているかのように感じるものです。

 引き戻しの誘惑は、これとは違った現れ方をすることもあります。スケジュールを見直して、2日の遅れを取り戻す方法を見つけたあと、“こんなもんでいいだろう”と休息の椅子を差し出すのです。そして多くの人は、工夫の手を弛めてこの椅子に座ってしまうのです。

 折角、思考の川に水が流れ出したのに、ここで堰を弛めてしまっては、また元の思考パターンに戻ってしまいます。恐らくこの人は、自分は詳細なスケジュール管理ができる(できた)と錯覚してしまうことでしょう。彼が出来たのは、元々甘さがあちこちに混じったスケジュールを、ちょっと絞って、その余分な部分を「改良」した程度のことなのです。だから、予定外のことが出現すると、すぐに壊れてしまいます。このような人は、自分が予め考えていなかったことには全て「不可抗力」というラベルを貼るのです。その“瞬間”に思考が停止したことに気付かないのです。

 本当に「思考の川」に意図して水を流すことが出来たときには、本人も驚くような結果になります。その時点で決して手を抜いたわけではないスケジュールでも、6ヶ月後にそのプロジェクトが修了したとき、手元には20枚以上もの練り直されたスケジュールが残っていることでしょう。そこには、当初には気付かなかった作業が2割程度追加されながらも、合計で30%以上もの期間が圧縮されているのを見ることでしょう。彼には2日前に考え付かなかった「名案」が、何故か今日は考え付くのです。

 これは、以前の思考パターンの川を塞き止めてしまうことで、初めて手に入れることの出来る能力です。でも、ちょっとでも「こんもんでいいや」とか「どうしようもない」とか「自分の所為ではない」とか「しかたない」という言葉を浮かべたら、つまり、「以前の思考の川」の堰をちょっとでも弛めたら、もう手に入れることは出来ません。まさに自分の中での戦いです。こうして「思考の川」に、自在に水を流せるようになるには、1年くらいの時間(訓練)が必要でしょう。

 ここで求められていることは、自らの意識で思考をコントロールすることですが、思考は意識でコントロール出来ることは、現在の科学で既に説明されているところです。


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