「ソフト開発プロセスの改善手法と事例研究」について

 日経コンピュータの3.17号に『ソフト開発プロセスの改善手法と事例研究』とい記事が載っています。これは IEEE Software nov. 1996 に掲載された記事の翻訳で、原題は「Software Process Improvement at Raytheon」です。

 Raytheon 社は、ミサイル・メーカーで SEI (Software Engineering Institute) の提唱する CMM (Capabirity Maturity Model) に早くから取り組んできた企業です。IEEE Software の雑誌には、殆ど1年に1回は取り組みのレポートが掲載されています。

 SEI 自身、DoD (米国防総省)の支援を受けており、Raytheon 社も国防関係の企業であることも関係しているかも知れません。もっとも、「Software Enginnering」という言葉を最初に使ったのは、NATO(北大西洋条約機構)であることを考えると、欧米の軍需産業は昔からこの種のアイデアには強い興味をもっているのかも知れません。

 それはともかくとして、この記事には、Raytheon 社が、CMNM に対する8年間の取り組みの方針などが簡単に報告されています。そこには1000人規模の開発組織を確実にレベル1からレベル3に引き上げた工夫が窺えます。

 レベル1の状態を脱するには、最前線の開発組織だけでなく、幾つかの役割を担う組織(ワーキング・グループ)が必要で、そのためにマネジメントを含めた強力なインフラを組織したことが、紹介されています。そのようなグループの必要性や、それぞれのワーキング・グループの活動内容などは、CMM に詳しく提案されており、それらを自分たちの組織に上手く合わせて実現しているようです。

 レベル3の状態まで行くと、経済的効果は相当に改善されるはずです。テスト段階での修正コストが80%も減少しているようですが、それも当然でしょう。ソースコードの100行当りの欠陥数も、1988年の17.2件から、4.0件に減少しています。国防予算が削減されていくなかで、実にタイミングよく取り組まれてきたとおもいます。

 このように経済的効果の他に、そこでソフトウェアの開発活動に参加しているエンジニアの精神的な効果も測り知れないはずです。つまらないリワークによる精神的ダメージは殆ど無いでしょうし、関係者のスケジュールは全て調整され、作業の成果物は適切に見える形になっているはずです。そうでなければ、効果的なレビューは実施できません。レベル3では「ピア・レビュー」が実施できることが求められています。

 そして何よりも彼らは、ソフトウェアの開発において「上手く仕事をする方法」を身に付けているのです。これは、間違いなく21世紀に活躍するための、重要な“パスポート”となるでしょう。

 このホームページをご覧になった皆さんの組織も、CMMの取り組み内容を研究して、急いで取り組まれることを強くお勧めします。21世紀には、これに取り組んできた組織と、取り組まなかった組織との間に、決定的な「差」が生じていることでしょう。

 なお、ソフトウェア・プロセスの成熟度の紹介や、レベル1からレベル2へ引き上げる際のCMMの提唱する取り組み内容などは、「Software Process」のページをご覧下さい。

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 経済的なグローバリゼーションは、単に資本や人が国境を越えて、資本の論理に従って自由に動くというだけではありません。それは同時に「グローバル・スタンダード」の普及も促すことになります。すでに、会計規則がアメリカの基準に統一されようとしていて、日本もそれを採用する方向に動いています。これが世界基準で統一されると、経営者の能力の判定基準が統一されます。そうなると、組織の運営能力(マネジメント能力)の判定も、「グローバル・スタンダード」で測られることになるでしょう。

 CMMは、ソフトウェア開発組織の「グローバル・スタンダード」なのです。


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