「新中小企業の時代がくる、大企業は下請けに」

これは日経エレクトロニクスの11/18号に掲載された記事で、目にされた方も多くいるようです。この記事を読まれた方は、一つの時代の流れを感じたかも知れません。

この記事にも書かれているように、総じて今の日本の大企業は、その大きさ故に不利な状態にあるとも言えます。本来なら、その体力や技術力を武器にして新しい分野に切り込んで行かなければならないのが、減点主義的発想から挑戦を阻む体質を蔓延させ、さらにはコア技術の喪失によって、ここに来て閉塞状態に陥っています。

労働生産性や資本生産性の悪さが、企業のコスト体質を悪化させ、世界での競争力を失わしめているのです。たとえばパソコンにしても、もっとスリムな組織で作れば、半値近くで作れても不思議ではありません。現に Alpha チップを使った高性能なコンピュータが半値以下の70万円台で作られているのです。これは今までの組織のいままでは実現しないでしょう。」

▲ 大企業の育成が政策目標


これまでわが国の基本方針は大企業を育てることを第一の目標としてきました。戦後の混乱期から経済を立て直すにはその方針は間違ってはいなかった。そのため通産省を始めとして、政府・官庁を挙げて、一つの企業を大きくすることに注力してきました。そのためには新規参入を抑制したし、時には国民の生命を犠牲にしてまでも大企業を育ててきました。

だが生産性を伴わない規模の拡張は、21世紀を前にして行き詰まりを見せています。今日の状況はまるで「戦艦大和」を彷彿させます。時代は機動力を求めているというのに、相変わらず戦艦にこだわって「大和」を作り、空母や兵站能力を強化することを怠った当時の状況に似ています。

今日の企業も、その大小を問わず機動性が求められているのです。政策決定のスピード化は勿論のこと、時には競合相手のリソースをも活用するという大胆な発想と行動が求められているのに、ここに来て「巨艦主義」が災いしているように思われます。

かっての成功体験が足枷となっているのと、コストなどの企業活動の本質を無視した活動を続けてきた結果、その大きさが仇になる危険が大きくなっているのです。

▲ 外注管理が主な仕事?


これまで、大企業の多くは、自らの開発方法やコスト体質を見直すことなく、安直に「外注」に出すことを選んできました。もちろんそれによって得られるものは、その製品の部品コストが安くなるだけであって、その企業の総合的なコスト体質が改善するわけではありません。今まで開発していた人が、今度からは外注を管理?する方に回っただけで、生産性が上がったわけではありません。

確かにこれによって、納期を急ぐときも、部品コストを下げたいときも、外注に圧力をかければ実現しました。社内で開発していたときは、「出来ない言い訳の壁」に阻まれたことを考えると、管理者は楽になったかも知れません。

しかしながら、その結果失ったものは決して小さくはありません。
重要な技術は外部に流出したし、期間内に仕上げる技術も外部に出てしまいました。極端に言えば、大企業に残されたものは、外注業者の尻を叩くことだけになったかも知れません。

▲ 革新技術は何処に?


一般に新しい技術は、ベースとなる幾つかの技術が揃っていないと生まれてくるものではありません。また、技術者自身の思考回路の動きも、その環境によって大きく変わります。常に、工夫を湧きださせることが求められる環境になければ、技術の革新は生まれてくるものではありません。

これからは、斬新なアイデアと高い技術力を持った中小企業(日経エレクトロニクスの記事では「新中小企業」と呼んでいる)が、その大企業の製造設備を使って自社の製品を世に送り出すという形が広がっていく筈です。

技術の革新能力を失った大企業の中には、新しい技術を生み出してくる“ファブレス”中小企業に対して自社の製造設備を提供するか、或いは、そのような中小企業が開発した製品を自社の製品として製造するかの選択を迫られる企業も出てくるでしょう。

もちろん、それだけでは現有の組織を維持できるとは限りませんが、時には積極的に設備を提供しなければ、組織を維持できない可能性もあります。

▲ 中小企業にとって絶好のチャンス


これに対してファブレス中小企業は、どこで製造しても構わないのです。しばらくすればアジア諸国の製造能力も向上してきます。コストを無視して国内で製造する必要はないのです。

何れにしろ、大きいことが、単にそれだけでは何のプラスにもならない、それどころか負担にすらなる時代が来ているということです。企業の在り方を外さない活動が求められているのです。

逆に言えば、中小企業や新興企業にとって絶好のチャンスだということです。これからはしっかりした技術を持っている企業、新しいアイデアを形に出来る企業が勝つ時代です。私が最近「この国で一番になるのは易しい」というのは、このような状況を踏まえてのことです。ただし、そのような中小企業が「前車の轍」を踏まない限りにおいてですが。


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