日経コンピュータ(8.17)にインドのソフト会社に関する記事が載っています。バンガロールのモトロータのソフト子会社は非常に早い段階でSEIのレベル5を取得したことで有名だが、この記事によると、他にも10社がレベル3以上を取得しているという。さらに2000年迄に数社がレベル5を取得しそうだと書かれています。
プロセスのレベルが「3」以上だと、付随的に個々の技術のレベルも高いことが予想されます。それはレベル1の組織では、殆ど個々のスキルを上げるための技術の習得に取り掛かれないことの裏返しでもあります。レベル1であるがゆえに、そのままではプロセスの改善に取り組めないわけです。それがレベル3ということになると、顧客の要求を達成するために、非常に合理的なプロセスを持っているはずです。簡単に言えば最短のコースを知っている、あるいは、要求内容から最適のプロセスを繋ぐことが出来るものと思われます。
そうなると、当然の帰結として、新しい時代の要請に応えるために必要な技術の習得やトレーニングも、組織の計画に沿って進めて行く事が出来るはずです。といっても、この状態は、レベル1の組織に属する人には、想像が付かないかもしれません。当然、そのような組織では生産性が高いため、十分なトレーにングも可能になるはずです。
そして、このような高いレベルのソフト会社が、同じようにSEIのプロセス改善に取り組んでいる企業と連係することは、相乗効果も考えられるので非常にスムースに運ぶことが予想されます。ちょうど「5×5=25」となるように、プロジェクトによっては、レベルの低い組織との間で相当な格差が開くことになります。
レベルの高いソフト会社は、レベルの低い組織と組むことを避けます。発注者のレベルが低ければ、折角の高い開発レベルも行かされることはありません。要求の出し方も悪いし、品質保証についての知識もなく、変更管理や進捗の管理の仕方も持っていないというのでは、作業はスムースには進みません。だから、そのような組み合わせは続かないのです。日経コンピュータの記事は、「たくさんのビルが建った。たくさんの日本人が来た。そして帰っていった」という書き出しで始まっていますが、それは、まさにそのような組み合わせが成立しなかったことを意味しているように思えます。
難易度は高いが、同時に単価の高い、魅力的なプロジェクトは、このような企業の組み合わせの中で実現していきます。美味しいプロジェクトは「流しそうめん」のように、必ずしも下まで流れてきません。そうなると、収益の差はますます拡大し、相変わらず適切な技術を習得できない組織は、ますますデスマーチから逃れることが出来なくなるでしょう。
残念ながら、現状のままでは、殆どのソフトウェア・エンジニアは、最後までこの魅力的なレベルを経験することなく現役を退くことになる可能性があります。新しく入社した若いエンジニアも、もともと適切な「プロセス」を持っていません。殆どの組織では、職場に就いてから「習う」という形をとっているため、3年もすれば、そこの「文化」を継承することになります。
そこで行なわれている作業のやり方が、どこかおかしいと感じる人は、諦めずに正しい仕事の仕方を手に入れることです。適切な本を読み、自分でトライして手に入れることです。現状から「明日」が見えない以上、自分で動くしかありません。確かに、プロセスを変えるというのは簡単な事ではありません。取り組み方が適切でなければ、折角遠ざけたはずのこれまでの文化の逆襲にあいます。そこで諦めて立ち止まっても、何も変わらないということになります。何も変わらないと言うことは、時代の要求を満たさなくなるということです。
1日も早く、標準的な作業を身に付けてください。会社は永遠ではないことが分かった以上、何処でも通用する作業手順を身に付けることです。“何処でも”というのは、日本の外も含めてのことです。標準的な作業というのは、生産性を落とさない作業の仕方でもあります。「CMM」などは、ある意味では世界標準の作業手順ということができます。早くそれを身に付けなければ、いつまでもデスマーチから解放されることはないでしょう。唯一そこから解放されるときは、この世界から離れるときになってしまうでしょう。
その気になれば、こうして一つの雑誌の記事からでも、自分の進むべき方向を考えることができます。自分自身に真剣であれば、ヒントは身の回りにあるものです。