自分という商品


 皆さんは、自分自身を「商品」と思ったことがありますか? 品物のように扱われることに反発を思える人もいるかも知れません。そうは言っても、たとえばソフト開発全体の工程の中で言えば、ソフトウェア・エンジニアも設計工程や実装工程を担う「機械」みたいなものです。「給料」でレンタルしている機械と言うことも出来ます。「契約」という形で、関係が成立している場合は、「商品」という認識に、それほどの違和感はないかもしれません。

▲ セールスポイントは?

 労働者の市場が形成されれば、「自分という商品」を売り込むためのセールスポイントというものが必要になります。ただ、そこに他の商品と一緒に並んでいるだけでは、買って(使って)もらえません。同じような働きをする人は他にも居るのですから。時代にマッチしたセールスポイントを持っているかどうかが問われます。

 インターネットなどのネットワーク環境が普及する社会では、いったいどのような能力が求められるだろうか。今までの様に、顧客から仕様の提示を待って、それから動くようでは間に合わないでしょう。デリバリが1週間遅れれば、顧客はどれだけの損失または儲け損ねになるか。そうなると、積極的に顧客を動かし、自ら仕様を求め、そこに存在するリスクに対応しながら可能な限り並行作業を進める能力が問われるでしょう。仕様の変化の方向を見極め、仕様が途中で変更されることに対応できる進め方を持っているか、ということも大きなポイントになるでしょう。

 単に、ソフトウェアの分析や設計が出来るとか、プログラムが書けるというだけでは、満足な仕事に就ける機会は訪れてこないかもしれません。それ以外に、他の人との違い、セールスポイントをアピール出来なければなりません。それが、あなたの付加価値でもあるのです。

▲ 管理職って?

 エンジニアと違って、問題になるのは「管理職」という存在でしょう。ソフトウェアでもハードウェアでも、いわゆる「技術者」のときは、設計技術という「技術」で勝負が出来ました。技術の実施に何らかのセールスポイントを付けることも可能でした。でも、「管理職」となったとたん、それまで拠り所であった「技術」のベルトは外されてしまいました。問題は、多くの管理職は、管理職としての技術のベルトを持っていないことです。管理職としての技術を身に付ける機会は無かったでしょうし、実際に「管理職」に就いてから多くの問題に直面し、それを“後追い的に”こなすのに精一杯で、管理技術として整理する時間なんて無いのではないでしょうか。それよりも問題なのは、管理職は経験があれば可能だと思われていることですが、とんでもないことです。

 これからは、管理職と言われる人もセールスポイントが求められるのです。もっとも、その前に「管理職」という職の定義そのものが変わる必要があるでしょうが、それとは別に、私のセールスポイントはこういうところです、と言えることが必要でしょう。セールスポイントを挙げることができないようでは、これからは通用しないでしょう。その点で不安なのは銀行です。銀行は、かって「ゼネラリスト」と「スペシャリスト」という分類を導入し、経営のトップに就くには、(なぜか)「ゼネラリスト」であることが求められていました。他の企業の中にも、この分類を真似たところもあるはずです。その当時、「ゼネラリスト」が幅を利かせたはずです。その人達が、今、40台の半ばで、企業の中核に位置しているはずです。彼らは、実際にマネージメントの技術をほとんど身に付けていないことに直面するでしょう。

 6月25日の日経新聞に、ゼネコンの営業マンだった人がOA機器販売会社に転職し、OAシステム構築の責任者として成功に導いたということが載っています。今までの考え方で言えば全くの畑違いです。でも彼は、マネージメントの技術を幾つか身に付けていたのです。

▲ 今から準備しておくこと

 ソフトウェアのエンジニアの多くは、意味もなく「管理」を敬遠しがちです。なぜ、敬遠するのかをはっきり言える人が殆どいないのが不思議です。「管理」と言うものに対して、漠然としたイメージを持っているだけなのです。そして、多くの先輩が忌避するのを見て、自分も同じように忌避しているだけなのです。そのために、マネージメントの技術として何が必要なのかを考えることも避けていませんか

 これからの、マネージメントとして身に付けて置かなければならないことは、例えば「CMM」の中に、うまく定義されています。特に、レベル2への取り組みの中で求めていることは、まさにプロジェクトを成功させるための「マネージメント」の必須項目なのです。これからのマネージメントは、情報が届けられるのを待っているのではなく、作業の見積もりやスケジュールの状態はどうなっているのか。計画書の中身は適切にまとめられているか。リスクや課題の認識、およびそれへの対応はどう考えられているのか、ということを、積極的に知るように動かなければなりません。

 「CMM」を活用したプロセスの改善の中で、こうしたマネージメントのスキルの幾つかを確実に手に入れることができるのです。別に、マネージャーに成るつもりのない人も、“うまくマネージされる”側として、この種のスキルを知っておくことは、大きな「セールスポイント」になるはずです。


「Index of SE の為の講座」へもどる