電子メールと仕事の特徴

 今日、ソフトウェアの開発組織では、どこでも電子メールが使われているでしょう。私なども、こうした電子メールの恩恵をまともに受けている一人です。これがないと、とても今のような形でのコンサルティング活動は出来ないでしょう。というより、パソコンや携帯電話の普及と共に、電子メールの機能を最大限に活用するように、仕事の形を変えてきたわけです。お陰で、何処にいても、全ての客先からのメールを受け取ることができ、そこで何が起きているのかを、殆どリアルタイムに知ることが出来ます。そして、休憩時間などをつかって、できるだけタイムリーにリプライすることができます。

 ところで皆さんは、その電子メールに対してどのように反応するかで、その人の仕事上の「問題」が見えることに気付いていますか?

   リプライしない人

 送られてきたメールに対して殆どリプライしない人がいます。もちろん、明らかに回答を求められているメールに対しては、リプライしないわけには行きませんが、必ずしも“明確に”リプライが求められていないとなると、全くリプライすることなく、読み捨てるわけです。

 送り手のAさんとしては、それがBさんにとって有用な「情報」と判断してBさんに送ったわけです。もちろん、そのようなメールの場合は、まず、リプライが求められていることはありません。でも、Aさんにしてみれば、読んでくれたのかどうか分かりませんし、役に立つ情報であったのかどうかも分かりません。いわゆる「無しの礫」です。

 Bさんは別に意地悪をしているわけではありません。彼自身、自分は発信した情報メールが、相手にちゃんと届いたか、そして読んでくれたかなんてことは全く気にしないのです。自分の役目は、発信することであって、そこから先のことは全く意に介していないのです。だから、人から送られてきたメールに対しても、送り手がそのメールに対する「反応」を期待しているとは、考えもしないのです。

 Aさんのようなタイプの人は、普段の業務に於ても、例えば顧客から出された「要求」の内容を“念のために”確認するようなことはなく、自分で“分かった”と思えば、それでよいわけです。要求を出した顧客にとってみれば、3日前に送った「要求」が、完全に“理解”してもらえたのか、それとも、掴みどころが無くて無反応なのか不安になっていても、そんなことは全く感じていないのです。

 もう一つ、このリプライしない人は、一般に「Thank You」を発しない傾向があります。「出来て当たり前」のことに、絶対に「Thank you」を言わない。反対に、ちょっとでもミスをすると怒りだします。これは日本の社会の特徴かも知れません。「減点主義」の発想では、どうしても減点の対象に目がいきます。

 別に感謝されることを期待しているわけではなくても、ちょっと「ありがとう」とか「参考になった」というメールが返ってくるだけで、気持ちも変わってきますし、また新しい情報を見つけてあげようという気持ちになるものです。もっとも、Bさんは、このような指摘に対して、「そんなリプライメールを一々送っていたら、ネットワークが混雑してしまう」という、リプライしない「正当性」を主張するかも知れません。でも、それはどう見ても、「やらないための言い訳」にしか過ぎません。送られてきたメールを“丸ごと”折り返す必要はないのと、1日中ネットワークが混雑していることはないからです。リプライメールだけ速やかに作っておいて、発送は適当なときにまとめて出す方法もありますし、通じる程度に文章を短くすればいいのです。もっともその前に当人と顔を合わせてしまっては、メールを作った時間が無駄になりますが。

「礼状は速やかに」というのは、人間社会の原則です。

 したがって、このようなチームの作業は、どこか気持ちが抜けていて弾みがつかず、全般的に遅れる傾向があります。Header File や、共通で使用する構造体などが定義されていないことに気付いても、それを“わざわざ”知らせるようなことはしません。そんなことをしても、感謝されないし、逆に「そんなことで一々知らせてくるな!」と反撃をくらうでしょう。挙句は、重複定義してしまうことになり、その後の作業の遅延の要因を作ることになります。

   メールを溜めてしまう人

 また、メールを開くこと自体を後回しにして、溜めてしまう人がいます。そもそも適当な時間間隔でメールを取りに行かないのです。自分の仕事が忙しいからと言う「理由」で、1日の最後に読み出します。当然、メールが溜まっているわけですし、中には催促のメールも入っていたりします。タイムリーに読み出さなかったことで、却ってメールを増やしてしまったわけです。当然、受信したメールに対して、片っ端からリプライするわけには行きません。その後の方に、催促のメールが既に届いていたり、時間切れを示すメールが送り付けられていることもありますので、手当たり次第にリプライの文章をかいても、無駄になるだけです。そうなると、余計に時間がかかってしまいます。

 こうして本来、「10」の時間で済むものを、「13」も「15」も時間が掛かってしまうのです。このような人にとって、電子メールは忌まわしいものであり、自分の作業の進行を妨げているものとしか認識されないかもしれません。実際、組織の中で、改善すべきテーマを拾いだすために業務上の「問題点」を挙げると、「割り込み」と一緒に「電子メール」が槍玉に上がることがあります。このような人にとっては、電子メールも、忌々しい「割り込み」に過ぎないのでしょう。

 このようにメールを溜めてしまう人は、作業の優先順位の考え方に問題があるかもしれません。今日のように、チームによる作業が中心になってくると、チーム内のメンバーだけでなく、チーム間においても、「作業の並行性」が優先の要因となってきます。送られてきたメールを溜めてしまうことで、メンバーの作業がそこで止まってしまう危険があります。そしてその停滞は、一人の問題ではなく、連鎖的に周りの人の作業に停滞を引き起こします。

 電子メールなどの伝達手段は、作業のスピード、情報のスピードを上げることによって、判断のスピードを早くするという市場の要請があって普及したものです。したがって、これをその目的にそう形で使いこなされていないとなると、その組織は市場の要請に応えられない状態に陥る危険が高くなります。

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 このように、たかが電子メールですが、その対応の仕方を見るだけで、その人の仕事の能力の一面を見ることが出来ます。21世紀は「チーム」という形が中心となります。そのとき、電子メールを上手に使えないようでは、メンバーの信頼を失うだけでなく、顧客や外注先からも信頼されなくなります。特に、ここに挙げた「リプライしない人」や、正当な理由なしに「溜めてしまう人」は、生産性に対する厳しい要求を考えると、とても一緒に仕事をすることは出来なくなるでしょう。

 このページをご覧のあなたは如何ですか?

 気になる方は、ぜひ、メールに対する姿勢を改めるように工夫して下さい。そして、こうした「日常」の行動が、実際の業務の結果を左右することを忘れないようにしてください。




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