(2007/1/8 掲載) 「過去の巻頭文は、このページの最後に一覧にして掲載しています」
日本のソフトウェア開発は正念場に立たされています。一向に減らない仕様の変更や、リリースの度に発生するトラブルによって企業も大きなダメージを受けています。そこには、かつて80年代に築いた「品質大国」の面影はどこにもありません。わずか15年で失ってしまった。評論家諸氏に言わせれば、日本の品質は“まだまだ先進国の中では高い”という。だが、EUやNAFTA(アメリカ、カナダ、メキシコによる北米自由貿易協定)のような大きな市場を持たない日本の場合、ちょっとくらい品質が高い程度では競争力としては乏しい。第一、その程度ではすぐに追いつかれてしまいます。
それに、“まだまだ”という表現に、かつての様な特筆した状況にはないことを暗示しています。実際、日本のソフトウェアの開発現場は決して将来に希望を持てる状態ではありません。私の様なコンサルタントが忙しい状態というのは、決して望ましいことではないのです。でもそれが現実なのです。
今回、このホームページに公開する「21世紀の品質保証体制の構築」というのは、私が5年ほど前から構想を練ってきたもので、この間のコンサルティングでそれぞれのクライアントにおいて行ってきたことの中には、この構想を確かめるための取り組みも多く含まれています。幾つかは、その都度私のホームページの中に紹介しているものもあります。
“かつての日本の品質はどこに行ったのか”、“あの時の取り組みはなぜ消えたのか”、という疑問は、プロセス改善のコンサルティングをしながら90年代半ばに考察を開始したテーマです。そしてCMMの普及とともに導入された「SQA」の活動と従来の日本の品質保証の活動を合体させる方法を思いついたのが2000年ごろで、そこからかつての品質保証の取り組みの過ちを繰り返すことなく、21世紀の品質保証のあり方を模索してきました。それがある程度まとまったのを機に、ここに提案するものです。まだ説明が不足している部分はありますが、現段階でも私の構想の内容は十分に伝えることができると思っています。もちろん、これで完成したわけではありませんので、この後も継続して練り上げていきます。
「構想」ということで、これを読むことで直ぐにでも取り組めるぐらいの内容にするために、非常に長文の内容になっていますが、プリントしてじっくり読んで頂きたいと思っています。そしてそれぞれの組織で真剣に考えてもらいたいのです。
システムクリエイツという会社が一般のコンサルティング会社であれば、ここまでHPで公表することはないでしょう。でも、この会社は社員もいない私一人の会社であり、私一代で終わる会社です。だから何も残す必要はないのです。私は40年間、ソフトウェアの世界で楽しく活動できたことに感謝しています。その思いから、今回、この構想を公表することにしました。少しでも多くの組織とそこで働く人たちが時代の波に飲まれることなく高い品質の製品を生み出すことに役にたてば、それだけでよいと思っています。
なお、「CMM」はカーネギーメロン大学のサービスマークです。米国特許商標局に登録されています。また、ここでのCMMの解釈は、私自身の経験に基づいた独自の解釈であり、公式の解釈を妨げるものではありません。
(目次)
90年代に何が起きたか
80年代の成功と失敗の原因を知る
90年代以降の市場の要求の変化にどのように対応したか?
プロセスを固定する過ちを犯した
デミング賞にみる日本の品質の変化
品質軽視の代償
不用意なアウトソーシング
PLやPMにおいて過剰責務が発生
繰り返されるリコール
21世紀の品質保証のあり方
従来の品質保証の限界
予防からの品質保証
失敗をプロセスで解決する
経営者の決断が品質を変える
新しい品質保証体制の提案
SQA活動の拡張
設計部門との連携
ドブに捨てたコストの把握
時代の要求を追跡する仕組み
スキルの把握とスキルアップ対策の推進
「人」の破壊を防止すること
プロセス改善確認会議
社内カンファレンス
CMMの活用
プロセスを変化させる仕組みを活用する
「能動」の喚起と水平展開機能を活用する
CMMとの連携に対する懸念
まとめ
2007年1月
「硬派のホームページ」主催者より