庵主の日記2

2003年5月18日 株価下落の背景

 株価がようやく8000円台を回復しているが、これは政府が打ち出す「株価対策」に対する期待値である。これまで何度も、株価の下落があるたびに、政府は株価対策を打ち出してきた。でもしばらくするとその効果は薄れ、前回以上に下落してきた。その理由は、打ち出された株価対策は、いずれも株価を引き上げる(下落を食い止める)ための対処療法に過ぎず、痛んだ資本主義の仕組みを改善するものではないからである。

 今回打ち出されようとしている「株価対策」も、投機家を救うものであって、新たな投資家を資本市場に引き戻すものではない。日本では、投資家と投機家を区別できていないのかもしれない。いわゆる「ファンド」は本来は投資家のはずだが、日本では一部を除いてほとんどが、売買を繰り返す「投機家」として行動している。証券会社を親会社に持つ以上、親会社の利益に貢献することが求められるのだろう。

 たしかに、緊急の対応として投機家を呼び戻すこともあってもよい。だが、長期的には「投資家」を呼び戻さなければならない。資本主義を支えるのは、投機家ではなく、長期的に資本を事業機会に提供する投資家である。市場に投下する資本は、いずれも「リスクマネー」である。投機家は損を覚悟で行動している。そのかわり、儲けるときは大きくもうけようとする。投機家同士で損したり得したりすればよい。

 だが投資家は基本的には損をすることは考えていない。投下した資本はある程度確保され、それでいて投下した資本に見合う配当を得ることを期待している。そのためには、投資しようとする企業の経営実態を正確に表したデータが必要である。時価会計が求められるのも、親会社の決算を取り繕うための隠れ子会社などがあっては、安心して投資できない。だが、この面での実施は遅らせてしまった。つまり、投資家を遠ざけてしまった。

 もう一つの、配当への課税も撤廃しようとしない。株式の配当の原資は、企業側で事前に課税されたあとの残りである。それが配当として個人の手に渡ったところで再び配当されている。つまり完全な2重課税である。したがって配当を非課税にすることで、投資家には大きなメリットが得られる。ところが、政府は僅かに税率を下げただけである。それも投資家の投資行動を税務署に見せることを交換条件にした。当然、投資家はこれを嫌って市場から資金を引き上げた。

 株式市場が低迷している原因には、このほかに年金の代行返上の問題もあるが、このように、政府がやっていることは、すべて投資家を遠ざける政策ばかりである。バブルの崩壊以降、株式市場での個人投資家の減少がそのことを物語っている。そしてその度に、取られる政策は、投機家を保護し、逆に投資家を遠ざける政策で、いまや資本市場は大きく傷ついてしまった。

 問題は、株式市場に限られていない。株式市場から遠ざかった投資家の資金は債券に向かった。30年国債の金利が1%に満たないというのは、今後30年、日本の資本市場は回復しないと予想したことを意味する。これに対して平然としていられるのは何故か?