庵主の日記2

2003年5月2日 繰り返される無意味な職業訓練の施策

 経産省が若年層の就業を促すための職業訓練制度を2004年度に作るという。

 全体の失業率は5%台だが、若年層の失業率は公称でも10%を越えており、実態は30%に達しているものと、私は思思っている 。このまま放置していては、日本の経済活動に大きな支障を来すことは明らかである。実際、30過ぎまで定職に就いたことの無い人が、そこから技術の継承を必要とする職業に就くというのは困難で、その状態では、就ける仕事は限られる。当然、収入も低くなるだろうから、ここから派生的に色んな社会問題に発展する。
 と言うことで、職業訓練を民間業者に委託する形で、何とか若年者に就職の機会を作ろうというのである。その主旨は悪くはないが、問題が2つある。一つは、なぜ経産省が職業訓練を主導するのかということであり、もう一つは、指名解雇が規制されている状態では、単なる画餅に過ぎないということである。

 ます最初の、なぜ経産省が「地域若年者サポートセンター」なるNPOを作らなければならないのかということであるが、最近はNPOという看板が上がっていても、内実は政府の息の掛かった組織だったりする。実際、このNPOには、政府が費用の一部を負担をすることになっており、役人の再就職先となることは明らかである。そして、この組織を通じて求人する企業にも、NPO維持の為に一定の費用負担を求めるという。この時代に、誰が費用を負担してまで、この「センター」から人材を採用するのか。よほど、採用することに“おまけ”が付くか、即戦力として使えるような訓練が為されない限り、この「センター」が機能するとは思えない。
 そこまでのレベルでなくても、こうして訓練された若年者が採用されるには、そこで身に付けた技術が、現場で使える状態に近いレベルであることが必要になる。果して、そのレベルに教育できる民間業者が有るのだろうか。それには、教える側に、第一線で活躍している民間人を活用することが求められるが、これはボランティアでできるものではない。したがって、民間企業が、自分の会社に使える人材を育てるために、教育機関に自社の第一線の人材を派遣することに、何らかの見返りが必要であるが、財務相は協力しないだろう。

 たとえ、そうした即戦力を目指した教育が可能だとしても、こうして教育を受けた若年者が採用されるには、企業に於て“入れ替え”がスムースに行える状況が必要である。経済が右肩上がりの時代であれば、若年者を“追加”で雇用することもできた。だが、今日の状況では、ほとんどの企業は「余分な雇用」を抱え込む余裕はない。したがって、新しい人材を採用するには、現在居る人を指名解雇できることが条件となる。(この点では、現在、解雇の法制化が進められており、労基法の改正によって、このような理由では逆に指名解雇が不可能になる)

 嘗て、大手電機メーカーの社長は、「日本の企業には利益をだすだけではなく雇用を守る使命もある」といって憚らなかったが、そのような企業は、90年代後半に入って押し並べて大量のリストラ(希望退職の募集)を実施してきた。中には陰湿な手段を使って退職を迫っている。それでも、企業の業績は本格的には回復しない。希望退職で本当は残したい多くの人材を失ったため、競争力が低下しているのである。一時的に黒字になっているが、それは人件費が大幅に削減された結果にすぎない。このような状態で、職業訓練を受けた若年者を追加採用できる見込みは低い。
 一方で、円高に対応するため、日本の製造業の多くは、海外に生産拠点を移している。つまり、日本国内での雇用の機会は確実に減少しているのである。このように、職業訓練を受けた若年者が新たに採用される環境が整備されていないのである。
 「3年間で100万人雇用」という経産省が掲げる数字は、何を根拠にしているのだろうか。私には、国民をばかにした数字に見える。